株式会社リーフ・ラボ
丸尾 達

静岡県菊川市出身。藤枝東高等学校卒業後、千葉大学園芸学部、千葉大学大学院園芸学研究科を経て、1981年から千葉大学に勤務。2002年に助教授、2013年に教授、2021年に定年退職。現在千葉大学名誉教授、公益財団法人園芸植物育種研究所 理事長・所長、NPO植物工場研究会副理事長。

社長は千葉大学名誉教授。新進気鋭の大学ベンチャー企業とは

株式会社リーフ・ラボは千葉大学柏の葉キャンパス内にある会社だ。千葉大学を中心に開発した技術や千葉大学のネットワークをベースに2020年に立ち上げた企業で、レタスなどの植物生産工場におけるさまざまな課題を、これまでとは異なる新しい育種技術と視点を用いて解決することを目指している。

「植物工場や施設園芸の分野において、千葉大学は世界的にも極めて高いポテンシャルを有しています。千葉大学植物工場拠点を支える組織として立ち上げたNPO植物工場研究会の活動やネットワークも、当社の事業に最大現活用できると考えております。」今回インタビューに応じたのは代表取締役の丸尾氏だ。千葉大学名誉教授の一面もある丸尾代表に研究者として、そして経営者として話を伺った。

「理論より挑戦」植物工場に革命を起こした丸尾代表

40年以上にわたり千葉大学の園芸学部園芸学研究科において教育・研究活動を続けていた丸尾代表。2021年に定年退職することとなるが、その前の10年間は植物工場に関する教育・研究活動を主として柏の葉キャンパスで活動を展開していた。その際、主として高度な環境制御や栽培システムの開発・改良を中心に生産性の大幅向上を図る取り組みを行ってきたが、最終的に植物工場専用品種の重要性を強く認識し、種苗会社などへの働きかけも行ったものの、十分な対応を得られなかったという。

特に人工光型植物工場は、すべての栽培環境を作物の成長に最適レベルに制御できるため、原理的には成長速度・生産性を革新的に高くするメリットを持つ。しかし成長速度が一定の限度を超えて高くなると、作物に種々の生理障害が発生することがある。例えば人工光型植物工場で主に栽培されているレタスでは、成長速度が過度に高くなるとカルシウムが欠乏して起こる「チップバーン」と呼ばれる生理障害が発生する。そのため植物工場のパフォーマンスを最大限発揮できないことが多く、照明時間の短縮やサイズが小さいうちに収穫するなどの対応を仕方なく行っている状態だったと丸尾代表は語る。

当然ながらそのような条件下では十分な生産性が得られない。事業的にも利益を出しにくい構造になっているだけでなく、高い生産コストからマーケットも限定されていたという、なかなかに難しい現状があった。

そのような中、株式会社吉野家ホールディングスから共同研究の依頼があったのが契機となった。丸尾代表が長年抱えていた最大の課題である「人工光環境下でもチップバーンが発生しない品種の育成」の研究開発を、共同で行うことになったのである。

「野菜の育種には途方もない時間と専門的な知識が必要であることは理解していたんですが、まずは挑戦することにしたんです。」と当時を思い起こす丸尾代表。すると幸いなことに2年目には、チップバーン耐性が極めて高く成長速度も速い、まさに求めていた品種候補のレタスが育成できたという。

さらに、当時の育種の選抜・評価には人工光型植物工場を最大限活用していたが、この手法が原理的に『高速育種技術』につながることが判明。さらにこれを最適化することで、効率的な植物工場専用品種育成が可能になるとわかった丸尾代表は、植物工場産業の活性化のために起業することにしたのだ。

リーフ・ラボの幅広い事業展開

国内外の種苗会社では人工光環境で効率的な育種が可能な施設や人材が不足しているが、リーフ・ラボでは千葉大学で長年にわたり研究開発を行っていた知識・経験や輩出してきた人材やネットワークなどをベースに、独自の育種手法を活用して効率的な『高速育種』を実現・展開している。

現在はとくにレタス類の品種育成に注力しているが、その際、現場のさまざまな事業者の課題や疑問を直接ヒアリングし、現場に即した育種やコンサルティング事業を行っているという。また育種だけでなく採種手法に関する研究開発も行っており、安定した種子提供につながる取り組みを幅広く展開している。

そして高速育種により短期間で効率的な品種育成が可能であることから、リーフ・ラボは顧客の要望に応じた『テイラーメイド(オーダーメイド)育種』にも対応している。実際の人工光型植物工場では太陽光を光源とする施設とは異なり、LED照明システム等が工場ごとに異なるのが一般的で、工場毎に最適品種が異なることから、需要が高くなると考えられているテイラーメイド品種の育種。これにリーフ・ラボの高速育種が極めて有効な技術として活用が期待されているのだ。

また実際に育成した品種を普及する際には、品種パフォーマンスを最大限引き出す栽培環境や栽培管理を行う必要があるが、十分な対応ができていない工場も少なくない。そのような場合は、専門的な知識・経験を生かしたコンサルティングも行っている。

世界的社会課題を解決する存在として

現在の日本の専業農家戸数はおよそ100万。しかし2050年には17万戸まで激減することが推測されており、ごく近い将来から食料の安定供給が極めて大きな社会課題になることが判明している。そのような中で、植物工場は極めて重要な役割を果たすことが期待されているが、最大のネックは専用品種の育成が遅れていることだと丸尾代表は語る。「品種育成には長い年月と専門的知識、そして経験が必要であると考えられてきました。今後、当社で開発した『高速育種技術』を活用して、植物工場の発展を強力にサポートすることが当社の目標です。」

露地栽培も含めて世界中の多くの作物・品種の育成に応用が可能であると考えているリーフ・ラボの最新技術。日本だけでなく世界に幅広く認知される日もそう遠くはないだろう。

株式会社リーフ・ラボ

本社所在地
千葉県 柏市若柴178番地4 KOIL6階
設 立
2020年5月1日
資本金
97,125,000円
事業内容
野菜種子の研究および生産、販売。
企業URL
https://leaflab.tech/
代表者
丸尾 達