城下町にある世界トップシェアの印刷技術とは

古くから江戸幕府を支えてきた千葉の北総地域。江戸防衛の東の要衝としてその名が知れ渡っていた佐倉城は現在、佐倉城址公園として千葉県佐倉市を見守っている。この佐倉市に、世界トップレベルの技術を持つ企業がある。

ナカンテクノ株式会社。液晶ディスプレイパネルの生産ラインに不可欠な「産業用の印刷装置」を製造・販売している。高い印刷精度を誇る技術力が国内外で評価され、フラットパネル・ディスプレイ業界の中では世界トップシェア。特に液晶パネル用の配向膜印刷装置は主力製品であり、TV、スマートフォン、車載用ディスプレイなど、液晶画面が搭載されている製品のほぼすべてにナカンテクノ株式会社の技術が使われているという。

今年で創業87年を迎え、今も国内外からVIP顧客の来訪が絶えないという佐藤代表に、千葉から世界をリードし続けられている秘訣を語ってもらった。

世界に求められる装置づくりの秘訣は「情熱と協力」

「お客様のためにより良い装置をつくるにはどのように行動したらよいか、社員一人ひとりが互いに協力し合うことで次の新しい技術が生まれる。今あるモノや技術に満足しないことが大切なんです。」そうゆっくりと、熱く語る佐藤代表。

1937年、ナカンテクノ株式会社の前身である株式会社中西鉄工所は、紙のオフセット印刷を取り扱うメーカーとして成長を続け、創業以来、印刷技術に対し情熱を捧げ、大小さまざまな企業への納入を果たしてきた。

1976年、液晶用の産業機械（特殊印刷機）である液晶ディスプレイ配向膜印刷装置の開発に成功。液晶パネルには配向膜と呼ばれる、液晶分子を一定の方向に配列させる樹脂膜が組み込まれており、この配向膜の製造装置で、以降ナカンテクノ株式会社は業界トップの存在となる。

その後も版胴自転式フレキソ版転写型配向膜印刷装置、インク・ジェット印刷機、レーザーリペア装置などを次々と開発し、印刷分野の範囲を着実に広げていった。

そして2009年、現在東証スタンダード市場に上場しているヘリオステクノホールディング株式会社に事業譲渡をおこない、グループ会社化を果たす。同時期に海外事務所を開設し、本格的な国際販路の拡大に歩みを進めていくこととなる。

「世界のナカンテクノ」を支えている存在

数々の特許を所有しているナカンテクノ株式会社の印刷技術力は計り知れない。0.001mm（1ミクロン）以下の厚さを均一にコントロールできる印刷精度の高さ、その精度を保って量産を実現する抜群の生産安定力、そして曲面素材への印刷にも対応できるという無限大の応用力。こんなハイレベルな技術が実現できるのは、世界各地を見てもこの会社だけだ。現在、世界で製造されている液晶画面の約90%にナカンテクノ株式会社の技術が使われている。

しかしここで語るべきは佐藤代表の次のことばだろう。

「もちろん技術は大切ですし、その重要性は国内外に広く認知されています。ですが真に誇りに感じるのは、その技術を構築、活用し、世の中に提供している社員や、彼らを支えているご家族の皆さんの存在です。

彼らなくしてはこの会社の存続はありえません。業績賞与や臨時手当の支給はもちろんですが、コロナ後恒例のバーベキュー大会や忘年会も再開し、英気を養う場を設けています。世の中に提供している価値を考えると小さなものかもしれませんが、せめてものお礼として続けていくつもりです。」

そういった福利厚生など、働きやすい職場環境づくりが評価され、昨年に続き経済産業省が審査する「健康経営優良法人2024」の認証を取得。ナカンテクノ株式会社が最も重視しているのは、社員との信頼関係なのだ。

そして次の舞台へ

目下の挑戦はインクジェット印刷機の拡販だと佐藤代表は言う。液晶業界だけではなく、高精細な印刷が可能な自社のインクジェット印刷機の特性と親和性の高い、新たな販路の開拓を目指しているのだ。

そして、数年前には新たに半導体事業へ参入。半導体研磨機などの開発・製造をおこない、ニッチなポジションを獲得しようと試みている。

「これまでの液晶業界での成功を基盤にしながら、これからは他業種に積極的に参入します。「少数精鋭、技術のプロフェッショナル集団」として、事業の多角化、グローバル化を推進することで、会社の更なる成長を確実なものにしていくつもりです。」静かにそう語る佐藤代表。次に挑戦する舞台は、どこだ。