外房の老舗鰹節店
有限会社永井商店は、千葉県鴨川市にある老舗の鰹節店である。
大正9年の創業以来、100年以上の歴史があり、主に業務用の鰹節を蕎麦店、和食店、ラーメン店、ホテル、千葉県の学校給食などに納入している。
また近年は小売り用の商品にも力を入れており、手間を惜しまない製品作りは原料にあるという思いから、鹿児島県や高知県、そして地元千葉県など全国から良い材料を求めている。
そんな千葉の台所を支えている永井商店の専務、永井氏に話を伺った。

江戸時代から続いている房総半島の鰹節製法
房州では、江戸時代中期に紀州出身の鰹節職人、土佐与一が門外不出の鰹節製造技術を伝えたと言われており、その伝統的な製造方法が今もなお受け継がれている。
冷凍原料ではなく、勝浦港に水揚げされた生鮮カツオや南房総に水揚げされた生鮮ゴマサバを使用している事が他の産地の鰹節や鯖節と違うところ。
永井商店を含めた地元鴨川の鰹節製造会社2社による「房州鰹節、鯖節、削り節生産会」で作っている房州産鰹節・花かつお、そして房州産鯖節・鯖花削りは千葉県による「千葉ブランド水産物」に認定されている。
そして2019年に行われた、天皇陛下の代替わりに伴う皇室行事の「大嘗祭」においては庭積机代物に、「房州鰹節、鯖節、削り節生産会」の「房州産鯖節」を供納した。「これまでの努力が認められたようで大変うれしく思いました。」と永井専務は当時を振り返った。

しかし約10年前は厳しい時期が続いていたと永井専務は語る。
「海外への販売の話や、大手企業と房州産の鰹節のコラボのお話などもありましたが、2011年の東日本大震災によって、東北、関東の水産物の輸出がすべて禁止になり、計画はすべて白紙になりました。またコロナ過でも需要の創出に苦労しましたし、直近ではサバの全国的な不漁に業界全体で悩んでいるのが正直なところです。」
だが経済産業省の「クールジャパン」政策における、世界にまだ知られていない日本が誇るべき優れた地方産品を発掘し海外に広く伝えていくプロジェクト「The Wonder500」にも選ばれているなど、その活躍には目を見張るものがある。

今一番アツい!“意外”な商品とは
100年続いているなか、今が一番の踏ん張りどころだと語る永井専務、実は現在ある意外な商品の開発に注力している。それがこのペット用鰹節だ。
「房州産鰹節の特徴である生鮮カツオを材料に使用していることで、塩分が0.3%程度しかありませんから、ペット用としてもぴったりなのです。おまけに味が良く、犬や猫が喜んで食べるととても評判が良く、ありがたいことに数多く引き合いが来ている状況です。」と永井専務は語る。

これからもこの味を千葉に
「正直、今掲げている会社の目標はありません。毎日、目の前の仕事で大変ですから(笑)。でも、せっかく残っているこの美味しい鰹節とその製法が、いつまでもこの房総半島に残ってほしいと思っています。ただそれだけですね。」と語る永井専務。永井商店の味は100年後も続いているに違いない。